国境の南

雑感

ガラスの街

虚無がすごすぎる。自分の虚無のすごさで春を感じるの嫌だな。あと花粉もすごいです。

自分の人生を忘れるためにひたすら本を読むことにしたが、多分色々ちゃんと考えた方が良いんだろうな、分かってんだよ

 

オースターのニューヨーク3部作の第1作目、ガラスの街。主人公にかかってきた間違い電話は私立探偵宛てだったがそれを引き受けてしまいなんだか大変なことになるという、一見探偵小説っぽいんだけどセオリー通りにはいかなくてめちゃくちゃモヤモヤする作品。何が本当なのか、どこからが間違っていたのか分からなくなってちょっと怖かった。これは語り手が真実を知らないので読者と一緒に悩むしかないというのがモヤモヤを生んでいるんだけど、まじで語り手誰なんだ。

柴田氏の評する「透明感溢れる音楽的な文章」というのがしっくりくる。小気味良くすいすい読める。会話文が面白くて好きだった。

"明るい五月の朝が、誘惑のように表にひそみ、宙をあてどなくさまよえと呼びかけている。"

↑ここが1番好き

話の終わり

2月からずっと読んでいたリディア・デイヴィス『話の終わり』をやっと読み終わった。恋人との出会いから別れ(主に別れ)を描いたもので、しんどくてなかなか読み進まなかった。というのと入子構造?回想する現在の「私」、過去の「私」、小説家としての「私」など時間軸も行ったり来たりするのでぼんやり読んでいたらよくわからなくなって、あれ…とか思って前のページに戻ったりしていたせいもある。

とにかく思い出のディティールが細かいなと思った。忘れられ上書きされながらも記憶の中にある風景や感触、肌の匂い。

 だが、単に嫉妬だけから他の女と会ってほしくなかったわけではなかった。彼が他の誰かといれば、彼は急に私からとても遠い存在になってしまう。彼の意識は私にではなくその女の上に移ってしまう、前はどんなに遠く離れていても彼の意識は私の上にあったというのに。私を照らしていた彼の意識という光が、離れていってしまう。

別れてから執拗に電話をしたり常に彼を探し回る「私」だが、単に彼の不在によって「私」の中での存在が増しているだけでなく、彼がいなくなったことで自分自身の存在自体が不確かになってしまった。

 

彼を見るとき、私は彼だけでなく私自身も見ていて、私のその部分が永遠に失われてしまったのを感じた。それだけでなく、彼が私を見る目の中から、かつて彼が私を愛していたころの私が失われてしまっているのも感じた。

恋愛が終わる時の悲しさって、相手の中から自分が居なくなってしまうことだと思う。ぴったりひとつになっていると思っていたものがちぐはぐになって変わっていくのは悲しい。目の中から自分が失われていくこと、松田聖子の「瞳はダイアモンド」を思い出した。

 

本を読むペースが下がっているので上げていかないと…

 

正しくあろうとする人によい風が吹きますように

紙の日記を書き続けているがブログも書きたくなる、人の目に触れることを気にしながら書いた文章になるから紙の日記では書かないことも勝手に出てきたりするのが面白い。文章を書く練習のために君島大空のライブの感想を書いていたのだけど、途中で気に入らなくてつい校正してしまって書き終わらないからこうやってだらだらと書いて振り返らないくらいが良いのだろう

仕事で嫌なことがあってカリカリしながら帰って来る途中で、カリカリしてさっき同僚に送ってしまったチャットを消したりしていた。カッとなると別件のことにもカリカリしてしまって後で嫌な気持ちになる。あの女絶対許さない、あれは私の落ち度もあったがあっちの件は許せない。スーパーで酒と目についた食べ物を買い込んで帰宅したら親が体調不良で寝込んでいたのでやけ酒は回避された。コロナかな?仕事に行きたくないから私もコロナになりたいなぁとうっすら思うが、前回かかった時の辛さを思い出すとそんなことも言っていられない、が仕事には本当に行きたくないな。一昨年の春からずっと取り組んでいる仕事が全く良くなっていかないし、一人だけ頑張っているみたいで馬鹿らしくなってくる。私がやっていることに意味はあるのだろうか?「皆さんの仕事には意味があります、正しくあろうとする人によい風が吹きますように」折坂悠太が言っていた、その言葉だけを頼りにしている、最近。

ジャージの二人

柴崎友香さんの解説が良かった。小説の読み方について。

なんでも意味を見出そうとし過ぎていて、ただそうしたかったからそうした、そこにあるからあった、ってそれだけのことだと思ってればいいってことがたくさんある。本当によく思う。

「自分以外のものを勝手に自分のほうへ引き寄せない、という態度」

わかったふりをするな、わからないものをわからないままにしておく、それだけのことだ。

沖で待つ

ブログを書こうと思うと腰が重い。

練習と思って頑張ってやっていきます。

 

10月の読書3冊目は絲山秋子沖で待つ』。先日行った時に買ったフヅクエ文庫のうちの一冊。短編が3つ。ぱらぱらと読み始めたら面白すぎる、出だしからアクセル全開の「勤労感謝の日」。改めてとびらの著者紹介を見てみると、表題作が芥川賞受賞作品とのこと。知らなかった。

主人公があまりにも毒づくうえにやたらリアルで笑ってしまう。近所のおばさんがお見合い話を持ってきてくれるけどいざ会ってみたらひどくて

それから彼は私を値踏みするように上から下まで見回した。そして私の下半身に目をやったまま、にへらり、と歯茎を剥き出した。笑いのレベルで言うと猿の方が断然かわいい。

 野辺山氏は、敢えて表現するとあんパンの真ん中をグーで殴ったような顔をしていた。

ここめちゃくちゃ笑ってしまったが、30代半ばの婚活の厳しさがあるな。当時は珍しかった女性総合職として勤めていた時のエピソードや元同僚との飲みの会話の中からは女の生きづらさを節々と感じた。

 

表題作「沖で待つ」、こちらも女性総合職という境遇は同じ主人公と、同期の「太っちゃん」との交流が描かれる。職場の同期って、友達とかとはまた違う戦友みたいな絆があるのめっちゃわかる。もう8年の付き合いの同期何人かいるけど、お客さんとかお局にキレられてるヤバい場面を助けられたり助けたり

 

私たちの中には、あの日の福岡の同じ景色が、営業カバンを買いに行けと言われて行った天神コアの前で不安を押し隠すことも出来ず黙って立ちつくしていたイメージがずっとあって、それが私たちの原点で、そんなことは今後も、ほかの誰にもわかってもらえなくてもよかったのです。

ここ読んで思わず泣いてしまった。同期と一番最初に顔合わせした時の話とかたまにしたりするけど、本当居てくれてよかったよ、と思う。

同期が好きすぎて転職できない自分としては心に残る作品だった。

オラクル・ナイト

昨年冬に、初めて青山ブックセンターへ行った際購入してしばらく寝かせていた。

柴田元幸さんの訳本は村上柴田翻訳堂シリーズで何冊か読んでいたはず。

オースターは初めてだ。どうでもいいがオースターのことをどうしてもオールスターと読んでしまう。(感謝祭)

 

主人公は生死を彷徨うような事故から生還した作家シドニー・オア。

ある文房具店でブルーのノートに出会い、それに小説を書き始めた日から二週間ほどの出来事が描かれる。

物語内物語としていくつかのエピソードが組み込まれ、決して長くはない小説だがかなりボリューム感がある。かなり細かい注釈もあるためだろう。この注釈がまた、細かすぎて、作者のノンフィクションなのかな?と思ってしまうぐらい。

冒頭を読み始めて、かなり好きだと思った、痺れまくって久しぶりに本を読んで高揚した。

 

世界は偶然に支配されている。ランダム性が人間に、生涯一日の例外もなくつきまとっているのであり、命はいついかなる瞬間にも、何の理由もなく人から奪われうる。

シドニーの小説のテーマであるフリットクラフトのエピソードからの引用。

“世界は正気で秩序のある場だと思っていたがそうではない”。

この一文を読んだ数日後には某政治家の銃撃事件が起こり、いやに実感を持って思い起こされることになってしまった。

 

それからずっと不穏な動きをしている美しい妻グレース。

結局グレースから真相は明かされず、シドニーの想像でしか語られないがたぶん他に男がいる、絶対にいる。

「私がなぜあなたと結婚したか知ってる?」

「いいや。訊く勇気が出たためしがない」

「あなたになら絶対裏切られないってわかってたからよ」

 

「とにかくずっと私を愛してちょうだい。そうすればすべて何とかなるわ」

 

どうして私たち、自分のことを間違いなく愛してくれる人のことを最初から選べないんだろうね。。。

 

 

台詞回しと物語の袋小路感が村上春樹っぽいな(稲妻男さん)と思いながら読んでいた。

ポール・オースターいいな。他の作品も読んでみたい。

狭き門

無印の古本は本当に選書がいい、ハズレがない。ありがたい。

 

「なぜ、婚約者になる必要があるんだろう。別段世間の人に知らせないでも、ぼくたち二人が二人であり、またいつまでも二人でいるということさえわかっていたら、それでたくさんじゃないか。……その愛の気持を、何か約束で固めたからって、もっとりっぱになると思うかね?」

自分もこの間同じようなことを口走っていた気がするが、本当にそうかな?ジェロームは不安だっただけだと思う。こんなこと言い出す奴はそうなんですよ。

 

アリサの信心や行動は、神へのものと見せかけて結局ジェロームへ向けられたものだったが、幸福そのものを願うことが罪だった、というわけなのかな。全然宗教についての知識がないので読みきれていないところがありそうだが、、

 

「では、あなたは、希望のない恋を、そういつまでも心に守っていられると思って?」

「そう思うよ、ジュリエット」

「そして、日ごと日ごとの生活がその上を吹きすぎても、それが消されずにいるだろうと思って?」

ジュリエットが掴んだ種類の幸せのことを思う。